東京都港区の循環器内科、心臓血管外科、心臓血管研究所付属病院は虚血性心疾患、不整脈、弁膜症、心不全などの心臓病を専門とし、心臓カテーテルなどを行っています。

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虚血性心疾患





カテーテルインターベンションとは、どんなものですか?
カテーテルを用いて行う治療全般を指す言葉ですが、ここでは冠動脈疾患に関係することだけを説明します。
1970年代の中頃にヨーロッパで開発されたバルーンによる冠動脈血行再建法が出発点です。わかりやすく“風船療法”と説明されたり、PTCA(本来は古典的なバルーン治療を指す)と略語で呼ばれたりすることもありますが、今では“風船”以外のさまざまな手法が開発され、一括して“コロナリーインターベンション”と総称されます。
それまで、詰まってしまった、あるいは詰まりかかった冠動脈の血行を回復するためにはバイパス手術しか方法がありませんでした。
しかし、バイパス手術は開胸術を必要とする大手術です。できることなら体への負担をできるだけ少なくして血行を再建したい、と考えるのが人情です。このバルーン療法の成功が報告されると、またたく間に世界中に普及しました。さらにバルーンだけではなく様々な道具が開発されましたが、その途中経過はここではちょっとはしょります。
さて、方法ですが、どのインターベンションも冠動脈造影と同じように、カテーテルという細い管を直接冠動脈の入り口まで通すことからスタートします。このカテーテルの中を通して細い(0.010インチ-0.018インチ)針金を狭窄部(完全に詰まっているときはそこをこじあけて)の先まで送り込みます。これも全ての方法に共通です。
その針金をガイドにしてバルーンその他の道具を狭窄部まで持っていき、拡張の作業を行うわけです。
 1.バルーン
 2.ステント
 3.DCA
 4.ロタブレイター

です。
その他レーザー、TECなどの方法がありますが、あまり一般的ではありません。
狭窄部まで到達した道具で、狭窄部を押し広げる(バルーン、ステント)、動脈硬化巣を削り取る(DCA)、動脈硬化巣を粉砕する(ロタブレイター)ことによって狭窄を解除するわけです。
全体の所要時間は数十分から数時間(病気の状態によってさまざまです)、痛みを感ずるのは最初の局所麻酔とカテーテルの外筒を血管に入れるとき、それに拡張作業を行っている間の数十秒(この間は冠動脈の血流が止まりますから)です。
術後の安静時間は施設によってさまざまですが、標準的に足の付け根から行い圧迫止血する方法では18-24時間の安静を要します。
こうして見てくると、バイパス手術に比べると遙かに楽そうですが、狭窄の状態によってはどうしてもバイパス手術のほうが良い場合もあります。
また、バイパス手術は手術が完了すれば一応治療が完結するのに対して、カテーテルインターベンションには“再狭窄”という特有の問題があり、これが起きないことを確認して初めて治療が完成する、という違いがあります。

バルーン形成術とは、どんな方法ですか?
これが古典的な意味でのPTCA (Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty)です。1977年に最初の報告が発表されてからもう20年以上たちました。ステントが全盛の現在ではPOBA (Plain Old Balloon Angioplasty)と呼ばれることもありますが、この方法が基本であることは変わりません。

バルーンを膨らませる前です


これはバルーンを膨らませているところです。このバルーンは刃の付いたちょっと特殊なものですが、こうして狭窄部で数十秒から数分バルーンを膨らませます。それからどのくらい広がったかを写真で確認します。それを何度か繰り返します。


これが出来上がりです。

ステントとは、どんなものですか?
動脈硬化巣の成分は皆同じではありませんから、同一の場所でも物理的な固さが極端に不均一になることもあります。そのためバルーンによる拡張では血管の一部に亀裂が生ずることがあります。これを“解離”といいます。小さい解離であれば問題ありませんが、大きな解離は血管を閉塞してしまうことがあります。この現象は“急性冠閉塞”と呼ばれ、全PTCAの数パーセントに発生する重大な合併症として恐れられてきました。この急性冠閉塞を防ぐために開発されたのがステントです。
つまり、バルーンで大きな亀裂ができてしまったときに、筒状の金属を血管の内側にいれて、それによって亀裂を支える、という方法です。 
その後、亀裂ができなくともステントを使って大きな内宮面積を確保しておけば、“再狭窄”という急性冠閉塞とともにPTCA治療におけるもうひとつの重大問題も回避できる、という考えが生まれ、実際いくつかの大規模研究によってバルーンだけによる治療よりステントのほうが、再狭窄が少ないことが証明されるに至ってステントは爆発的に普及したのです。
今では全コロナリーインターベンションの半分以上をステント植え込みが占め、施設によっては9割以上がステントというところさえあります。
ただ、ステントは万能ではありません。むしろバルーンのほうが良い結果を期待できる病変もありますし、ステントを植えればすべての再狭窄が予防できるわけでもありません。ステントがはいったために却ってややこしい形の再狭窄が起こったり面倒な事態を引き起こすことだってないわけではありません。(こういう状態を業界では“ステント病”(stent disease)となかば自嘲的に呼んでいます。)
コロナリーインターベンションも、さまざまな手法の選択肢のなかからその人その人に最適な治療法を選択し、組み合わせて使用する時代になりました。
実際のステントを見てみましょう。

これは最近高頻度に使用されるDuraflexというステントで、拡張された状態です。材質はステンレスです。これが通常のバルーンカテーテル上に閉じた状態でマウントされており、この部分を狭窄部まで押し進め、そこでバルーンをふくらませると上の写真のようになります。バルーンがしっかりふくらんだのを確かめてからバルーンをすぼめて引き抜きます。そうすると狭窄部はしっかり広げられたうえ、内側からステントで支えられることになります。この他にも数種類の材質、形状の異なったステントが存在します。その特徴の違いにより、病変に最も適したと思われるステントが選択され、留置されることになります。

DCAとはどんな方法ですか?
DCAとは、Directional Coronary Atherectomyの略語です。
バルーンやステントが動脈硬化巣を押しつぶすのに対して、このDCAは狭窄部の粥腫(沈着したコレステロールや脂肪のかたまり。プラークともいいます)を削り取って体外に取り出すという方法です。
実例をみてみましょう。

これは左前下行枝の慢性完全閉塞病変です。この閉塞部にワイヤーを通し、小さなバルーンで道をつけてからDCAを行いました。


デバイスの横には窓が付いています。この窓に粥腫を押しつけて、回転する刃(上の写真のデバイスの中で濃い黒にみえる部分)を動かし、粥腫を切除します、この作業を窓の方向を細かく変えながら繰り返します。削り取られた粥腫はデバイスの先端に溜まり、最後にそれをまとめて取り出すわけです。


これができあがりです。
ステントのように体内に異物を残さないという利点がありますが、正常な部分を削ってしまうと、冠動脈に穴を開けてしまうという極めて重大な合併症を引き起こしますから、作業は慎重に行わなければなりません。十分に粥腫を切除すると再狭窄はステントと同様に少ないことが証明されていますが、十分に、かつ安全にというのはなかなか難しく、どこの施設でも行っているわけではありません。
極端に太いまたは細い血管や曲がった血管、石灰質が血管の内側に及んでいるような固い病変は苦手ですが、左前下行枝や左回旋枝の入り口のような重要な場所に対しては一番に考慮されるべき方法だとわたしたちは考えています。

ロタブレータとは、どんな道具ですか?
動脈硬化が進むと、血管に石灰が付着してきます。そうすると血管は極端に固くなります。変な話ですが、病理解剖のときに使うメスの刃がボロボロになってしまうような文字通りの動脈硬化にまで進行することがあります。そういう血管をバルーンで拡張しようとしても十分広がってくれません。今のバルーンには20気圧以上の圧をかけても破裂しないように設計されているものもあるのですが、それでもダメ、あるいは固い部分と柔らかい部分の境目に大きな亀裂を作るだけ、というような病変もあります。そういうときの強力な道具として登場したのがロタブレータ(Rotablator)です。
これはワイヤーの先端に弾丸型のダイアモンドチップ(burr)が取り付けられており、そのチップを一分間に15万回以上回転させて、固い粥腫を赤血球大にまで粉砕して流してしまう、という道具です。
では、まず実例です。

これが術前の状態です。左回旋枝のステントは数年前に植えたもので、現在でも大丈夫です。問題は左前下行枝で、この写真でははっきり見えませんが、狭窄の部分をはさんで石灰が筒状に付着しています。しかも90度近く屈曲しています。実はこの人に対しては2ヶ月前にロタブレータを試みているのですが、そのときは一番小さなバーも病変を通過しませんでした。結局、小さなバルーンをようやく通して(それすら大変だった)、不十分なままインターベンションを終了しています。
“再狭窄したらバイパス手術するしかないですね”とお話していたのですが・・・案の定起こった再狭窄に対して、もう一度だけはインターベンションで治療してみよう、ということになりました。


今回はなんとかバー(写真のロタブレータの矢印)が病変を通過してくれました。
更にバーを少し大きなものに交換して何度か病変を広げました。
その後でロタブレータを走らせた場所にステント(このときはMultiLink2個)を植え込みました。



これが最終的な出来上がりです。きれいな仕上がりですね。
しかし、ロタブレータにもいくつかの問題点があります。
まず、血管の中で高速で回転するバーを操作するために、血管を破ってしまう可能性がある、ということです。このような血管破裂という合併症は血管を削る手技であるDCAや、場合によってはバルーンやステントでも起こりうるものなのですが、ロタブレータによって起こる血管破裂はきわめて深刻で、生命に危険が及ぶ状態を引き起こし、緊急手術でも救命できないこともあり得ます。
また、理論上は細かく粉砕された病変は血管に詰まることはないはずなのですが、必ずしもそううまくはいかず、胸痛が長く続いたり、ひどい場合は心筋梗塞になってしまうこともあります。ですから、心筋梗塞を繰り返したために残された心臓の機能の少ない人や、著しく病変が長いために削られる病変の量が多いと予想されるひとには、ロタブレーターによる治療はあまり適していません。
次に、上の写真でもわかるように直後の仕上がりは確かにきれいになりますが、そのことは再狭窄の予防とは何の関係もないということです。血管に与える傷が大きい分だけ再狭窄率はむしろ高いとさえ言えるでしょう。
更に、これだけで完全にインターベンションを完結できる方法ではないので、ロタブレータの後にバルーンやステントを追加する必要があり、医療費の側面からも問題は残ります。いろいろまだ問題の多い手技ですが、これによってしかできないケースがあることも事実です。
日本での経験はまだ十分ではなく、どういう使用法がよいのかを決めるには更に検討が必要です。

再狭窄とは、なんですか?
コロナリーインターベンションの主な合併症である急性冠閉塞(せっかく広げた血管がすぐに(大抵は数時間以内)閉塞してしまう現象)はステントの普及によってかなりの程度克服されました。
また、ステント特有の合併症として心配された亜急性血栓性閉塞(術後2週間くらいの間にステントをいれた場所に血栓が付着して血管が閉塞してしまう現象(SATと呼ばれる)も薬の工夫によって滅多に起こらなくなりました。
こうして現在ではコロナリーインターベンションの初期成功率、つまりとりあえず手技がうまくいき、無事退院できる確率は待期例であれば、ほぼ100%を越えるようになっています。
しかし、重大な問題が残っています。
どの方法をとるにせよ、カテーテルによる冠動脈治療は血管の内側に傷をつけることを避けられません。
そうすると、血管にはその傷を修復しようとする機転が働きます。その結果術後数ヶ月以内に、せっかく広がった冠動脈が術前と同じ、ときによっては術前よりひどい狭窄を起こすことがあるのです。
この現象を“再狭窄”(restenosis)といいます。
再狭窄の起こるメカニズムははっきりとはわかっていませんが、バルーンなどによって引き伸ばされた血管が(ちょうど引っ張られたゴムのように)また縮んでしまうリコイル(recoil)という現象傷ついた血管の壁の中の平滑筋をはじめとする細胞の増殖血管の再構築(remodeling)という現象などが複雑にからみあって発生すると考え
られています。
術後数週から数ヶ月のあいだに完成し、50%以上の狭窄になってしまうことを再狭窄と考えると、バルーンによる拡張に成功した血管の4割くらいに起こるとされています。
ステントやDCAが完全にできると、再狭窄は起きにくくなりますが、それでも再狭窄の可能性は2割を越えます。
そこで最近登場したのが薬剤溶出性ステントです。このステントは、通常のステントに免疫抑制剤がコーティングされており、ステント再狭窄の原因となるステント内新生内膜の増殖を抑制します。日本においても2004年8月から使用と可能となっており、当院でも現在数多くの症例に対し、このステントを留置しております。再狭窄率は3-7%と言われています。しかしながら、蛇行した血管、石灰化の強い(動脈硬化が著しく血管に骨とおなじようなカルシウムが沈着したもの)血管などに対しては、このステントが留置できない場合も存在します。また、新生内膜が張りづらいということで、上に述べたような血栓閉塞の可能性が大きいと考えられ、抗血小板薬を長期にわたり、服用しなければならず、またその薬の副作用チェックのために留置後しばらくは、短期間で外来受診をしなければならない、などのデメリットも存在します。
インターベンションの直後にどんなにきれいに見えている血管でも再狭窄は起こりうるので、術前と同じような症状がでてきたら、すぐに主治医に連絡すること 症状がなくとも3ヶ月とか6ヶ月(薬剤溶出性ステントの場合9ヶ月とすることが多い)とか決まった時期に冠動脈造影検査を受けて再狭窄の有無を確認すること(運動負荷テストやRI検査で代用することもできないわけではありませんが、その診断能は確実ではありません)です。
安静にしていれば再狭窄が起きにくくなるわけではありませんから、術後2週間くらいは過激な運動は避けるとしても、そこから先は普通の日常生活を送ればいいのです。
とにかく、症状が再発してきたら甘く考えずに、できるだけ早く病院と連絡をとることがいちばん重要です。次の外来予定日まで我慢しているうちに心筋梗塞をおこしてしまった、というような残念なケースを、わたしたちも何度か経験しています。


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