動脈硬化が進むと、血管に石灰が付着してきます。そうすると血管は極端に固くなります。変な話ですが、病理解剖のときに使うメスの刃がボロボロになってしまうような文字通りの動脈硬化にまで進行することがあります。そういう血管をバルーンで拡張しようとしても十分広がってくれません。今のバルーンには20気圧以上の圧をかけても破裂しないように設計されているものもあるのですが、それでもダメ、あるいは固い部分と柔らかい部分の境目に大きな亀裂を作るだけ、というような病変もあります。そういうときの強力な道具として登場したのがロタブレータ(Rotablator)です。
これはワイヤーの先端に弾丸型のダイアモンドチップ(burr)が取り付けられており、そのチップを一分間に15万回以上回転させて、固い粥腫を赤血球大にまで粉砕して流してしまう、という道具です。
では、まず実例です。

これが術前の状態です。左回旋枝のステントは数年前に植えたもので、現在でも大丈夫です。問題は左前下行枝で、この写真でははっきり見えませんが、狭窄の部分をはさんで石灰が筒状に付着しています。しかも90度近く屈曲しています。実はこの人に対しては2ヶ月前にロタブレータを試みているのですが、そのときは一番小さなバーも病変を通過しませんでした。結局、小さなバルーンをようやく通して(それすら大変だった)、不十分なままインターベンションを終了しています。
“再狭窄したらバイパス手術するしかないですね”とお話していたのですが・・・案の定起こった再狭窄に対して、もう一度だけはインターベンションで治療してみよう、ということになりました。

今回はなんとかバー(写真のロタブレータの矢印)が病変を通過してくれました。
更にバーを少し大きなものに交換して何度か病変を広げました。
その後でロタブレータを走らせた場所にステント(このときはMultiLink2個)を植え込みました。

これが最終的な出来上がりです。きれいな仕上がりですね。
しかし、ロタブレータにもいくつかの問題点があります。
まず、血管の中で高速で回転するバーを操作するために、血管を破ってしまう可能性がある、ということです。このような血管破裂という合併症は血管を削る手技であるDCAや、場合によってはバルーンやステントでも起こりうるものなのですが、ロタブレータによって起こる血管破裂はきわめて深刻で、生命に危険が及ぶ状態を引き起こし、緊急手術でも救命できないこともあり得ます。
また、理論上は細かく粉砕された病変は血管に詰まることはないはずなのですが、必ずしもそううまくはいかず、胸痛が長く続いたり、ひどい場合は心筋梗塞になってしまうこともあります。ですから、心筋梗塞を繰り返したために残された心臓の機能の少ない人や、著しく病変が長いために削られる病変の量が多いと予想されるひとには、ロタブレーターによる治療はあまり適していません。
次に、上の写真でもわかるように直後の仕上がりは確かにきれいになりますが、そのことは再狭窄の予防とは何の関係もないということです。血管に与える傷が大きい分だけ再狭窄率はむしろ高いとさえ言えるでしょう。
更に、これだけで完全にインターベンションを完結できる方法ではないので、ロタブレータの後にバルーンやステントを追加する必要があり、医療費の側面からも問題は残ります。いろいろまだ問題の多い手技ですが、これによってしかできないケースがあることも事実です。
日本での経験はまだ十分ではなく、どういう使用法がよいのかを決めるには更に検討が必要です。