虚血性心疾患,弁膜症あるいは様々な原因に基づく拡張型心筋症が進行して,慢性心不全症状を呈し,内科的治療が限界に達した場合,心臓移植あるいは補助入工心臓が最後の外科的治療法とされてきた.しかし近年,これらの末期的心不全患者に対して,自己の心臓を何らかの外科的手術で修復することによって心機能の改善を図ろうとする試みが行われつつある.本稿においては,心筋梗塞の末期状態といえる虚血性心筋症(Ischemic Cardiomyopathy:ICM)に対するDor手術と特発性拡張型心筋症を中心とする非虚血性拡張型心筋症(Dilated Cardiomyopathy:DCM)に対するBatista手術について解説する.これら心室縮小手術(cardiac volume reduction)は,内科治療と臓器置換というかけ離れた大きなギャップを埋める一つの新しい治療法として注目されている.
左室心筋の広範な慢性虚血により左室全体にびまん性,patchyなfibrosisが起こり,左室の収縮カが著しく低下しているものをBurch(1)はIschemic cardiomyopathyと呼んだ.このような症例に対して冠血行再建術のみで心機能の改善が得られる可能性は少なく,手術死亡率が高く,遠隔成績も不良とされてきた.Manleyら(2)は左室壁の半分以上に収縮異常を認め,うっ血性心不全を伴う症例に対し内科的治療と冠動脈バイパス手術との比較を試みた結果,内科的治療群でEF20%以下の症例の生存率は1年後で52%,6年後には10%であり,手術群では手術死亡率は25%で,6年後の生存率は30%と報告した.このように慢性心不全を主徴とする虚血性心筋症はこれまで冠動脈バイパス手術の適応から除外されることが多く,心臓移植の適応とされてきた.このようなICM症例に対して,Dorらは彼自身が1984年に開発し,その後多数の左心室瘤に対して用いたendo-ventricular circular patch plasty法(3)を応用することを試み49例の臨床成績を報告した(4).症例の平均年齢は60歳で,手術死亡は5例(10%)であった.本手術により左室駆出率は平均23±6%から38±11%へと増加し,左室拡張末期容量指数は248±79ml/m2から107±47ml/m2へと減少,また肺動脈模入圧は19±9mmHgから12士7mmHgへと低下した.
われわれ(5)は,1997年l月から1998年6月までの18カ月間にDor手術を21例に待機的に施行した.全例左室駆出率30%以下で,男性17例,女性4例,年齢48−79歳,平均年齢63歳であった.冠動脈病変は一枝2例,二枝3例,三枝13例,左主幹部3例で,全例心不全を主徴とし,狭心症は5例にのみ認めた.このうち9例に僧帽弁閉鎖不全,2例に三尖弁閉鎖不全の合併を認めた.術前の左室駆出率は6−30%,平均24%で,左室拡張末期容積指数は平均152ml/m2(最大288ml/m2),左室収縮末期容積指数は平均115ml/m2(最大246ml/m2),肺動脈系楔入圧は平均19土10mmHgであった.同時に施行した手術は冠動脈バイパス18例(平均3.2枝),僧帽弁置換6例,僧帽弁形成3例,三尖弁形成2例であった.手術では,冠動脈バイパスを行った後,左室を大きく切開して心内膜の搬痕化の程度と壁の厚さをよく調べたうえで,健常部と非健常部との境界に2-0 prolene糸でpurse-string sutureを置き,非健常部をexclusionした後,残存する開口部をパッチで閉鎖し,さらに外側に残るexclusionされた左室壁を縫合して出血を完全に防止する(図1,2).低左心機能症例にもかかわらず,大動脈バルーンポンプや左心補助装置を必要とした症例はなく,全例体外循環から離脱しえた.
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入院死亡1例(脳梗塞により2カ月後),遠隔死亡3例(不整脈,脳梗塞,腸閉塞)であった.術後EFは平均24%から41%へと増加し,左室拡張末期および収縮末期容積指数は152ml/m2から105ml/m2,115ml/m2から71ml/m2ヘ,また平均肺動脈楔入圧は19mmHgから13mmHgへと減少した(5).
ICMにDor手術が適している理由は,ICMにおいては,左前下行枝の閉塞による広範な前壁中隔梗塞が低左心機能の主因となっていることが多く,梗塞に陥った心室中隔を除去するためにはDor法によるendoventricular exclusionが手技的に容易で効果的に行いうるからである(図3).
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術前 |
術後 |
Batista(は,心筋症に基づく心拡大が従来からいわれている代償性の機序-すなわち心収縮力の低下を補うために左室拡張末期容量を増加させて,1回拍出量を維持する-とは逆に,心拡大そのものが左室壁張力を増加させて心筋の収縮カを低下させていると考え,拡大した左室の一部を切除して左室内径を縮小することにより,La Placeの法則に従ってその収縮カは向上すると考えた.
何らかの原因によって内腔が拡大して心不全に陥った心臓の収縮機能を改善させようとする場合,二通りの方法が考えられる.すなわち,心室の筋肉を増加させるか,あるいは現在の筋肉量に相応した内径になるように左心室を縮小すればよい.このような物理学的思考に基づいてBatista手術は生まれた.
左室の切除範囲は通常,前後乳頭筋の間,すなわち,回旋枝の鈍縁枝領域の左室自由壁である(図4).DCMの末期には僧帽弁閉鎖不全を合併していることが多く,この場合は僧帽弁置換あるいは僧帽弁形成術を行い,同時に左室の縮小を図る.左室切開部の閉鎖には慎重な配慮が必要で,搬痕化していない心筋を縫合するので,裂けて大出血を起こさないように注意深く縫合する.術前に低左心機能と他臓器の機能障害が存在するため,厳重な術後管理が要求される.
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手術成績はBatistaとSalernoら(7)によれば,本手術を施行した120例において,全例,術前の左室駆出率は20%未満,NYHA
Class IVで,術後30日以内の死亡率は22%,2年生存率は55%で,平均9カ月のfollow upで生存者の90%がNYHA
Class I〜IIに改善した。
Cleveland ClinicのMcCarthyら(8)によれば,本手術を施行した53例のうち50例(94%)が心移植対象例で,32例(60%)がNYHA Class IVであり,術後平均11カ月での生存率は87%で,術後生存退院例においてNYHA Class Iが35%,Class IIが32%,Class IIIが27%であり,72%の症例が心移植への再登録を免れることができた。
自験例(9)においては,1996年12月から1998年6月までの19カ月間にBatista手術を30例に施行した.男性25例,女性5例,年齢は14歳から67歳,平均48歳で,DCMの原因として,特発性拡張型心筋症22例,肥大型拡張相2例,不整脈原性右室心筋症1例,弁膜症3例,心筋サルコイドーシス1例,修正大血管転移症1例であった.僧帽弁閉鎖不全26例,三尖弁閉鎖不全18例,大動脈閉鎖不全3例の合併を認め,NYHA Class IVが21例を占め,そのうちの15例が術前ドーパミンやドブタミンの点滴に依存する重症例であった。
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手術は左室部分切除術に加えて僧帽弁置換術を20例,僧帽弁形成術を5例,三尖弁形成術を16例,大動脈弁置換術を3例に行い,術後IABP(大動脈バルーンポンプ)を6例に使用した.LVAD(左心補助装置)は現在までの症例では用いていない.待機手術を行いえた23例では院内死亡2例(肺炎,心不全),遠隔死亡2例(心不全,感染症+脳梗塞)で,19例(83%)が生存中であるが,術前に心停止や肺水腫などのために緊急手術となった7例では6例が心不全,不整脈,多臓器不全など様々な原因で死亡した.生存中の20例において16例がNYHA Class I一IIに回復し,4例がClass IIIである.左室駆出率は術前平均18%から術後31%ヘと増加した(図5,6)。
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重篤な心不全を主徴とする末期的心筋症は,内科的治療が限界に達すれば心移植に頼る以外に道はないとされている.しかし,心移植はドナー不足や年齢制限などの問題から,それを望む患者全てに行きわたることは不可能である.これら取り残された重症心筋症症例に対して,Batista手術とDor手術は新たな可能性と希望を与える有用な治療法である.
(「呼吸と循環」1998.10(Vol.46) 医学書院 より)