心臓移植

- 現状と展望 -

大阪大学医学部 第一外科 松田 暉、平田展章

はじめに

 1967年に最初にヒト- ヒト間で心臓移植が行われて、30年が経過しようとしている。この間に世界中約300以上の施設で40,000例以上の心臓移植が行われてきている。1982年のサイクロスポリンの登場以来、その臨床成績も飛躍的に上昇し、欧米では心臓移植は末期的心不全患者の外科治療として確立した。

 しかしながら、一方でレシピエントの増加に伴い、ドナー不足が移植プログラムにおいて深刻な問題となってきている。ドナー心を待っている患者の中には、移植待機中に全身臓器の末期的な悪化をきたし、生命が危険にさらされる場合がある。このような患者の救命のために、心移植のブリッジとして補助人工心臓及び完全置換型人工心臓が適応となってきている。

 本稿では欧米の心臓移植の臨床成績及び問題点を述べ、その現状と限界を明らかにしたいと考える。


欧米での心移植の現状

 1997年の国際心肺移植学会の統計では、1996年末までに297施設で40,738例の心臓移植が施行された(文献1)。1982年のサイクロスポリン導入以来、年間心臓移植症例数は飛躍的に増加したが、ドナー不足のため1988年以降年間症例数は3,000〜4,000例に落ち着いている。(図1)。
図1 年間心臓移植症例数(1997年度国際心肺移植学会の統計による)
1982年のサイクロスポリン導入以来、年間心臓移植症例数は飛躍的に増加したが、ドナー不足のため1988年以降年間症例数は3,000〜4,000例に落ち着いている。
(筆者注:1996年度の数字は集計途中の可能性があり、さらに症例数は増加すると考えられる)

心臓移植の適応疾患は、成人では心筋症(拡張型心筋症、肥大型心筋症拡張相)51.1%、虚血性心疾患39.6%、弁膜症3.6%、再移植2.3%、先天性心疾患1.8%、その他1.6%であり、一時は冠動脈心疾患が心筋症を凌駕したが、最近では再び心筋症の比率が増加している(図2)。
図2 心臓移植の適応疾患(1987年度国際心肺移植学会の統計による)
成人では心筋症(拡張型心筋症、拡張型心筋症拡張相)51.1%、虚血性心疾患39.6%、弁膜症3.6%、再移植2.3%、先天性心疾患1.8%、その他1.6%であり、一時は冠動脈心疾患が心筋症を凌駕したが、最近では再び心筋症の比率が増加している。
小児に限ると先天性心疾患46.8%、心筋症44.6%、再移植2.7%、その他5.9%である。その成績は、現在心臓移植後の生存率は、症例数の急激な増加を認めた1986年以降変化はなく、1年で80%、3年で73%である(図3)。
図3 心臓移植の成績(1987年度国際心肺移植学会の統計による)
症例数の急激な増加を認めた1986年以降変化なく、1年で80%、3年で73%である。

 心移植後のquality of lifeであるが、全米7個所のセンターで250人の心移植後患者を調べた結果、医学的には心移植後の生存者の約80%が社会復帰可能であるとされているが、種々の制約のため、心移植後実際に社会復帰した患者は、移植後3カ月以上生存した患者の45%であった(文献2)。


欧米での心臓移植の問題点

1. ドナー不足

 現在最大の問題点は、ドナー不足である。1995年に米国臓器提供センター( UNOS = The United Network for Organ Sharing )の登録された心臓移植待機中の患者6599人中、移植を受けられたのは2361人であり、待機中の770人が死亡している(インターネットより参照)、また待機日数は257日であった。この傾向はヨーロッパでも同様で、ドイツのある施設では1995年度の待機リスト患者318人中95人に心移植を施行したが、51人を失ったと報告している。また移植待機日数は、ここ数年直線的に増加しており、1990年では41.1日であった移植待機日数は1995年には232.5日であった(文献3)。

 したがって、より多くのドナー心を確保するためにextended donor criteriaが多くの施設で設けられようとしている。(文献4〜6)。すなわち従来では、ドナー心として使用されなかった40歳以上のドナー、心摘出時カテコールアミン使用症例、ドナーとレシピエント間の体重の20%以上の不適合症例、4時間以上の虚血時間のドナー心の使用、ドナーにおける冠動脈疾患の存在などでも積極的に使用されるようになってきた。虚血性心疾患が疑われる症例においては、ドナー心摘出前または摘出直後に冠動脈造影を施行するいわゆるbench coronary angiographyも施行されている。Morshiusらは冠動脈競作が認められた症例に、心移植と同時に冠動脈バイパスを移植心に施行している(文献7)

 また移植前の心虚血時間は以前は4時間以内とされてきたが、より長時間の虚血に耐えられるように心保存の研究がなされている(文献8、9)。種々の心保存液、例えばUniversity of Wisconsin液、St. Thomas液などが臨床応用されている。Bredshuneider HTK液を用いて、臨床的に240分以上の症例も良好な結果を得ている報告も見られる(文献6)基礎的研究として、教室でも以前よりShirakura(文献10)、Fukushima(文献11)らの成果を報告している。もう一つ虚血時間の短縮のためには、移植ネットワークの確立である。ヘリコプター、ジェットからひいては救急車、それを先導するパトカーに至るまでの綿密な連絡網が必須である。

 ドナー心不足のもう一つの対策として近年、異種移植の研究も盛んになっている(文献12、13)。異種移植に関する研究は歴史はかなり長く、ヒヒ-ヒト間の心移植も試みられている。現在、transgenicブタでの研究が進んでいる。

 一方、前述のように心移植を待たずして多くの患者が死亡している。このため心臓移植まで(ブリッジ)もしくは永久使用の機械的循環補助が必要な患者が増加している。Koerferらは1995年に95例の心移植を施行したが、同時に33人の心移植待機患者(移植患者の37%がブリッジの患者であった)にブリッジとして左心および両心補助装置を装着している(文献3)。TCI Heart MateやNovacorなどのポンプ自体が植え込み式の左心補助心臓が実用化され、さらに空気駆動から電気駆動と改善された現在では、ブリッジ患者においても比較的良好なQOLが得られている。またより装着の簡単な軸流ポンプの左心補助装置が開発中であり(文献14)、今後の発展が待たれる。

2. 拒絶反応

 急性期拒絶反応の予防に、免疫抑制剤の使用法が重要である。Stanford Universityでは、免疫抑制剤療法の導入にmonoclonal抗体やpolyclonal抗体の使用が急性期拒絶反応の頻度を減少させたと報告している(文献15)

 維持としての免疫抑制剤の使用も、サイクロポリン、イムランは一般的に使用されているが、プレドニンの使用に関しては、移植直後から使用する施設と、数回の拒絶反応が認められてから使用する施設に分かれる。

 慢性期拒絶反応すなわち移植心冠動脈硬化症も重要な問題である。その病因・病態は不明であるが、移植後の高血圧、高脂血症、サイトメガロウイルスの感染が影響すると考えれられている(文献16)。末梢冠動脈まで内膜肥厚、アテローム変性が生じ、冠動脈再建術が不可能なことが多く、再移植が必要となることがある。除神経の状態であるので、狭心症が生じず、その発見が困難であるため、定期的な経過観察が必要である。治療としてラットの実験ではACE inhibitorであるcaptoprilが有効である(文献17)という報告もあり、今後の知見が待たれる。

3. 感染

 あらゆる移植後の患者に言えることであるが、その性格上、感染の危険性は避けて通れない。通常には罹患しない病原菌にも感染しうる(日和見感染)ため、患者自身の日常生活上の自己管理(規則正しい生活、手洗い・うがいの励行など)が必要である。また感染の早期発見のためには、発症を想定したきめ細かい外来での管理が望まれる。すなわち定期的な外来受診日に、胸部X線、細菌(真菌)検査(喉頭、喀痰、尿)、真菌・ウイルス抗体検査の施行が望まれる。


おわりに

 本稿では欧米の心臓移植の臨床成績及び問題点を述べ、その現状と限界を検討した、再開を間近に控えた本邦での心臓移植では、欧米以上のドナー心の不足が予想される。またネットワークを含めた体制の整備においても、早い対応が必要であると考えられる。今後これらの点を乗り越えて、欧米と比肩するぐらいの成績があげられるように努力する必要がある。


文献

1) Hosenpud JD, Novick RJ, Bennett LE et al: The registry of the international society for heart and lung transplantation: thirteenth official report-1996. J Heart Lung Transplant 15 : 655-674,1996

2) Paris W, Woodbury A. Thompson S et al: Returning to work after heart transplantation. J Heart Lung Transplant 12 : 46-54, 1993

3) Jahresbericht 1995. Herzzentrum Nordrhein-Wesfalen Transplantations-buero.1996

4) Menkis AH, Novic RJ, Kostuk WJ et al: Successful use of the "Unacceptable" heart donor. J Heart Lung Transplant 10 : 28+32,1991

5) Schueler S, Warnecke PH, Hetzer R : Extended donor criteria for heart transplantation. J Heart Transplant 7 : 326-330, 1988

6) Koerner MM, Posival H, Minami K et al : Heart transplantation at the Heart Center North Rhine-Westphalia. In "Clinical Transplants" eds. Terasaki PI, Cecka JM. UCLA Tissue Typing Laboratory, Los Angeles, pp137-147,1992

7) Morshius M, Posival H, El-Banayosy A et al : Bench coronary angiography as a routine procedure in donor hearts over 40 years of age. in "Thoracic organ transplantation" eds. Koerner MM, Posival H, Hoerfer R. Elsevier, pp39-44, 1994

8) Wheeldon D, Sharples L, Wallwork J et al : Donor heart preservation survey. J Heart Lung Transplant 11 : 986-993, 1992

9) Pflugfelder PW, Singh NR, McKenzie FN et al : Extended cardiac allograft ischemic time and donor age : effect on survival and long-term cardiac function. J Heart Transplant 10 : 394-400, 1991

10) Shirakura R, Matsuda H, Nakata S et al : Prolonged preservation of cadaver heart with Belzer UW solution : 24-hour storage system for asphyxiated canine hearts. Eur Surg Res 22 : 197-205, 1990

11) Fukushima N, Shirakura R, Nakata S et al : Effect of terminal blood cardioplegia with leukocyte-depleted blood on heart grafts preserved for 24 hours. J Heart Lung Transplant 11 : 676-682, 1992

12) Auchincloss H Jr. : Xenografting : a review. Transplantation Reviews 4 : 12-27, 1990

13) Kaplon RJ, Michler RE, Xu H et al : Absence of hyperacute rejection in newborn pig-to-baboon cardiac xeno-grafts. Transplant 59 : 1-6, 1995

14) Konishi H, Antaki JF, Litwak P et al : Long-term survival with an implantable axial flow pump as a left ventricular assist device. Artif Organs 20 : 124-127, 1996

15) Yuh DD, Robbins RC, Reitz BA : Heart and heart-lung transplantation : an update. Asian Cardiovasc Thorac Ann 4 : 4-11, 1996

16) Miller LW : Transplant coronary artery disease : editorial. J Heart Lung transplant 11 : S1-S4, 1992

17) Kobayashi J, Crawford SE, Backer CL et al : Captopril reduced graft coronary artery disease in a rat heterotopic transplant model. Circulation 88 ( part 2 ): 286-290, 1993




医療関係の方々へ戻る  ホームページへ戻る