左室縮小形成術 - Batista 手術 -

湘南鎌倉総合病院 心臓血管外科 須磨久善


Batista手術の背景

 各種の拡張型心筋症(DCM)に起因する末期的心不全(end stage cardiac failure)に対して、現在様々な内科的治療が行われ、内科治療が限界に達した場合には心臓移植のみが救命の手段とされている。

 心臓移植は約30年の歴史の中で手術成績は安定し、免疫抑制療法も向上し、5年、10年生存率も明らかにされている。しかし、一方で、移植後の頻回の心筋生検、免疫抑制による感染症、そして慢性期の拒絶反応としての激しい冠動脈硬化症など、まだ深刻な術後の問題も残されている。何よりもドナー不足は大きな問題で、移植先進国の米国においても、1年間に約3万人の心移植を必要とする心筋症患者が存在するにもかかわらず、年間の心移植の数は2千数百例に過ぎない。すなわち、心移植の恩恵をこうむることができるのは10人に1人ということになる。心移植の再開が待たれる日本においては米国よりもさらに厳しい環境にあることは明白であり、移植に代わる救命治療法の登場がまたれる。

 volume reduction ventriculoplasty(左室縮小形成術)はBrazilで生まれた手術である。開発者であるDr. Randas Batista の名をとって、一般にBatista手術と呼ばれている。本邦は1980年代からBatistaの手により行なわれていたが、世界的に注目を浴びるようになったのはここ2〜3年のことである。

 BatistaはDCMに基づく心拡大が従来から言われている代償性の機序--すなわち心収縮力の低下を補うために左室拡張末期容量を増加させて、stroke volumeを維持する--こととは逆に、心拡大そのものが内圧を増加させて心筋の収縮力を低下させている(suicidal dilatation)と考え、拡大した左室の一部を切除して左室を縮小することにより、その収縮力は向上すると考えた。

 この逆転の発想から生まれたBatista手術は当初全く無視されていたが、同じBrazil出身でNew York州立Buffalo大学心臓外科教授で warm heart surgery の先駆者であるDr. Tomas Salernoによりその効果が認められ、世界に紹介された。Salerno自身も3年前に米国で初のBatista手術を行い、救命不能と診断されたDCM症例が驚異的に回復することを示した。その症例は現在も元気に生存中である。

 この事実を知った欧米の先駆的な心臓外科医たちは、BrazilのCuritibaにBatistaを訪ね、その手術の実際を目のあたりにして各自が自施設で手がけ始めた。世界の心臓病治療をリードする米国、Cleveland ClinicからもBatistaのもとに見学に出かけ、1996年6月から本手術を開始した。

 このような背景のもとにBatista手術は世界的な広がりを呈しつつ、本邦においても1996年12月に第1例目が行なわれ(文献1)、現在までに筆者らは6例に施行し良好な結果を得ている。


手術手技

 手術は体外循環下に行う、Batista自身は大動脈遮断をせずに心拍動下に左室の部分切除を行っている、筆者らは大動脈遮断下にcardioplegiaを注入して心停止下に施行している。左室の切除範囲は通常、前後乳頭筋の間、すなわち、回旋枝の鈍緑枝領域の左室自由壁である(図1)。しかし、左室の拡大が著しく弁輪拡大に伴う僧帽弁閉鎖不全が存在する場合は、僧帽弁置換を行い、同時に乳頭筋領域を切除して、十分な左室の縮小をはかる。Cleveland ClinicのMcCarthyら(文献2)は可及的に僧帽弁置換を避けるために、僧帽弁形成術(Alfieri法(文献3)--僧帽弁の前尖と後尖都を中央で縫合して、僧帽弁のprolapseを防ぐ方法で、この場合僧帽弁はdouble orificeになる)を積極的に行っている。乳頭筋領域をも切除しなければならない場合には、乳頭筋を根元で切離して残存する左室壁へ移しかえる方法を試みている。

 左室の縫合閉鎖には慎重な配慮を要する。瘢痕化していない左室壁を縫合する場合、一歩誤ると心拍再開後に縫合部が裂けて大出血をおこし重篤な事態に陥る。私達は特別に作成した左室縫合針(松田医科工業社製)と補強用のウシ心膜を用いて左室壁を2層に縫合し、さらに、表面に接着のり(GRF glue)を塗布して、後出血を防止している(図2)。

図1 Batista手術の図

図2 Batista手術完了時の写真


手術成績

 Batista自身は、これまでに500例以上の症例に本手術を施行したと述べている。

 1997年2月の米国Society of Thoracic Surgeons総会において、BatistaとSalernoら(文献4)は1994年8月から1996年8月までの2年間における120例の手術成績を合同発表した。症例の年令は生後9カ月から95歳と幅広く、DCMの原因として、特発性、虚血性、弁膜症、Chagas病、その他(ウイルス性など)がそれぞれ20%を占める。術前95%の症例がNYHA Class IVで、左室駆出率は5〜20%と低値である。手術は左室部分切除と同時に弁置換または形成術が90%の症例に行なわれ、生存率は周術期で95%、在院期で70%、1年後で60%であった。平均9カ月のfollow upで生存者の95%がNYHA Class I〜IIに改善し、術後の左室駆出率は平均30%(20〜65%)へと増加した。

 一方、Cleveland Clinicからは1997年5月の米国胸部外科学会(AATS)総会においてMcCarthyら(文献2)が報告した、1996年6月から10カ月間に53例に本手術を施行し、このうち50例(94%)が心移植対象例で32例(60%)がNYHA Class IVであった。特記すべきは対象を特発性DCMのみに絞っている点で、虚血性DCMに対してはCleveland Clinicは未だ本法を試みていない。

 生存率は92%(49/53)と高率で、手術による直接の死亡例はない。術後に左心補助装置を8例に用い、1例が死亡、4例が心移植へ移行、1例が離脱、2例が左心補助装置を装着のまま通院中である。術後の臨床症状はNYHA Class Iが31%、Class IIが32%、Class IIIが27%で、16例(30%)に心不全症状の再発がみられた。McCarthyは本発表において、Batista手術は未だ研究過程にあるものの、本手術が末期的拡大心を有する症例に対して驚くほど効果を発揮する事実を認識すべきだと述べた。

 筆者らの自験例は1996年12月から1997年6月までの6例で、男性5例、女性1例、年令は42〜60歳(平均51歳)である。5例が特発性拡張型心筋症、1例が拡張相肥大型心筋症で、5例がIII°以上の僧帽弁逆流を合併していた。

 術前の左室駆出率は13〜23%、LVDdは74〜83mmで、4例がNYHA Class IV,2例がClass IIIで、4例が術前にカテコールアミンの点滴を受けていた。

 手術は前例常温体外循環下に左室を切開し、前後乳頭筋の間の左室自由壁を切除した。4例に乳頭筋の一部も切除して左室の縮小をはかった。5例に僧帽弁置換を併せて行い、さらに2例に三尖弁形成術を追加した。手術時間は2時間15分〜5時間10分、平均3時間50分で通常の心臓手術と大差なく、全例IABPを必要とせず心機能の回復が得られた。最初の1例が肺炎とCOPDに起因する呼吸器不全により術後2週間目に死亡したが、他の5例は順調に回復し全員退院した(図3、4)。術後の左室駆出率は平均30%へと増加したが、僧帽弁閉鎖不全のない症例で乳頭筋間の左室を少なめに部分切除した1例では、あまり改善は得られなかった。

図3 Batista手術前術後の超音波所見        図4 M-mode echocardiography

今後の課題

 Batista手術は未だ明確な結論が出ていない手術である。その理由は症例の絶対数が少なく、施設によって手術適応が異なり、follow up期間が短いなど様々な理由による。

 手術適応と手術時期に関しては、現在のところ私達はCleveland Clinicと同様に特発性DCMに適応を限定しており、虚血性心筋症に対してはMonacoのVincent Dorら(文献5)の提唱する左室形成術を採用している。手術時期は術後早期の成績に影響を及ぼす重要な因子であり、できれば、重篤な他臓器不全に陥る前に手術を行いたいと考えている。

 心機能改善のmechanismに関しては、数多くの施設でその解明の試みが始まっているが、未だ明快な解答はなされていない。川口ら(文献6))は本手術後の左心機能は、左室縮小による収縮機能の改善と拡張機能の悪化の両者のバランスの上に成り立っていると述べており、注目すべき点であろう。

 DCM末期の多くの症例で、弁輪拡大による僧帽弁閉鎖不全が合併している。したがって、手術時に弁置換あるいは形成術と左室部分切除とを同時に行うことが多いため、術後の心機能並びに臨床症状の改善に関して弁修復による効果と左室縮小による効果とのいずれが重要なのかの議論が常にある。すなわち、弁修復だけでも有効なのではないかとの意見があるが、Batista自身は弁修復のみで左室収縮力の改善は望み得ないと述べている。本邦では国立循環器病センターからの報告で、富田ら(文献7)はDCMに合併した僧帽弁閉鎖不全に対して、弁修復のみを施行した多施設症例6例を調査した結果、術後短期的には臨床症状と左室拡張末期圧の改善を認めたが左室収縮力の改善は認めず、2例が1年以内に心原性死亡、2例が術後2.7年、8年で腎不全で突然死したと報告した。

 最後に左室縮小後に再拡大(redilatation)は起こるのか?起こるとすればどの時期か?について未だ回答は出ていない。様々な学会での本手術に対する討論において再拡大を認めたとの発言が散発的になされているが、その詳細についての誌上報告は未だなされていない。Cleveland ClinicのMcCarthyによれば、彼らの症例では未だ再拡大例は認めていない。

 この問題に関して注意すべき点は、手術が完全に行なわれたかいなかをまず確認したうえで、その後の検討がなされなければならないということである。左室を部分的に切除さえすれば手術の目的を達したということにはならない。例えばLVDdを10cmから7.5cmに縮めたとしても、それはcomplete surgical remodelingを行ったことにはならない。LVDd 7.5cmだけで十分にBatista手術の適応になりうる。しかも、もしMRが残存していれば、さらに左室拡大へのstressは大きくなる。このように初回手術でどれだけ左室がほどよく縮小されたか?等が検討され、それらが納得できる範囲で施行された症例に限って、術後の再拡大がどの程度発生するのかを検討しなければならない。

 そして、最も重要なことは左室壁のtissue characterizationである。術後に残存する左室壁の性状を術前に知ることが本手術の成績向上に不可欠である。今後、この方面での画期的な診断法の向上が望まれる。そして、本手術後に留意すべきことは術後の内科治療である。心機能が改善したとはいえ、駆出率30%台の心臓には十分な内科治療が必要である。患者の臨床症状の劇的な改善に目を奪われず、綿密なfollow upを循環器専門医のもとで行うことが必要である。私は、この手術の本質は、患者を内科治療の手の及ばない状態から内科的にコントロールしうる領域へと連れ戻すものであると考えている。そして、そのコントロールの方法が移植後の複雑なものと比べて、極めて日常的な薬剤によって行いうるものであるところに大きな利点を見いだせるのではないかと考えている。


文献

1)須磨久善、堀井泰裕、市原哲也 他:末期的拡大心に対する新しい手術。左室形成術(Batista Procedure). J Cardiol 29 : 117-122,1997

2)McCarthy PM, Starling RC, Scalia GM et al: Early results with partial left ventriculectomy. Presented at 77th annual meeting of American Association for Thoracic Surgery. Washington, D.C., 1997 May

3)Fucci C, Sandrelli L, Pardini A et al: Improved results with mitral valve repair using new surgical techniques. Eur J Cardiothorac Surg 9: 621-627, 1995

4)Batista R, Nery P, Bochino L et al: Partial left ventriculectomy to treat end-stage heart disease. Presented at 33rd annual meeting of Society of Thoracic Surgeons. San Diego, 1997 February

5)Dor V, Di Donato M, Sabatier M et al: Efficacy of endoventricular patch plasty repair in large post-infarction akinetic scar and severe LV dysfunction. Comparison with a series of large dyskinetic scar. Presented at 77th annual meeting of American Association for Thoracic Surgery. Washington, D.C., 1997 May

6)Kawaguchi A, Verde JL, Lima PN et al: Surgical left ventricular diameter reduction (Batista operation) for dilated heart failure. Jap Circ J 61 (Suppl. 1): 25, 1997

7)富田 威、中谷 敏、宮武邦夫 他:拡張型心筋症に合併した僧帽弁閉鎖不全症に対する外科的治療の検討。Jap Circ J 61(Suppl.1): 222, 1997



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