1. Minimally invasive CABG
近年、腹部外科における腹腔鏡手術や肺外科における胸腔鏡手術など低侵襲手術が盛んに行なわれているが、心臓外科においても1995年からminimally invasive CABGと称する低侵襲手術が世界各地で施行され注目を浴びている。
本法は左側小開胸下に左内胸動脈を剥離して、同視野で体外循環を使用せずに心拍動下に左内胸動脈と前下行枝の吻合を行うもので(図1)、手技に習熟すれば、手術時間は1〜2時間ですみ、2〜3日で退院できる。

1996年3月から当院において本法を開始し、これまでに25例に施行し死亡例はない。 心拍動下の吻合によるグラフトの開存性を高いレベルで安定させるためには、吻合中に心臓の動きを低下させ、吻合部のlocal stabilizationのための種々の工夫が必要で、私達もoriginalのheart stabilizerを試作し、有効性を認めている。
本法は患者の負担と医療効率の両面から極めてattractiveな手技であり、成功のためには症例の正しい選択と手術手技の修練が重要である。
2. 左室形成術 (Batista手術)
拡張型心筋症を含む心腔の拡大を伴った心筋症の予後は不良である。 欧米の心臓移植対象患者のリストに載るNew York Heart Association (NYHA)分類IV度の心不全状態に陥った患者の大半が、数か月の生存しか望めないのが現状である。 この疾患群に対する治療は、薬剤による保存的療法か心臓移植が現在までの選択肢であった。
薬剤療法では長期予後の改善は望みえず、心不全の軽減ないしは一時的な改善が得られるのみである。一方、心臓移植治療は、正常心を移植した直後から良好な心機能が得られるが、免疫機能との戦いは一生続き、頻回に心筋生検を施行し、免疫抑制剤による綿密なコントロールが必要である。
我が国では脳死の問題が解決されていないために心臓移植は再開されていないが、欧米でもまた深刻なドナー不足に悩まされている。 この心臓移植の代案として人工心臓の開発が急がれているが、現在、埋め込み型の心室補助装置が漸く実用化された段階であり、しかも血栓の問題は解決されておらず、経費の点でも心臓移植術より高価なもので、心臓移植へのbridge treatmentとして位置付けされているのにとどまっている。
この両極端の治療に対して、新しい外科的治療法として世界中で注目されているのが、左室形成術(left
ventriculoplasty)である(図2)。 本法はブラジルのRandas J. V. Batistaが約10年前に開始したもので、心不全末期の拡大心に対し、現在まで500例以上に本手術が行われている。

手術は拡大した左室の自由壁の一部を切除し、左室容量を減少させるもので、Dr. Batistaは心腔の拡大による著しい容量負荷が心機能悪化の主因であると考え、左室内径の縮小を目的に左室自由壁の一部を切除した。
手術方法自体は従来行なわれている心室瘤切除術で用いられる手技に類似しているが、瘢痕化した心筋である瘤壁を切除するのではなく、比較的正常な心筋を大量に切除して、心室形態を整える(remodeling)という発想が斬新である。
Batistaによれば、1994〜1996年2年間に120例(年令9カ月〜95歳)に本法を施行し、術前の駆出率(ejection fraction : EF)は5〜20%で、95%の症例がNYHA分類IV度であった。
周術期生存率は95%、院内生存率は70%、1年生存率は60%で、平均9カ月のfollow-upにおいて95%の症例がNYHA分類I〜II度に改善し、EFは平均30%(20〜65%)に増加した。
当院においても、1996年12月に本邦初第1例目、1997年3月に2例目をおこなった。 1例目は53才の男性で拡張型心筋症のために心不全を繰り返しており、僧帽弁閉鎖不全を伴う重症例であった。
左室部分切除と僧帽弁置換を行い手術直後から心機能の改善が得られたが、肺炎を併発し呼吸不全のために術後第12病日に死亡した。
第2例目は43才の女性で、やはり拡張型心筋症のために心不全を繰り返しており、僧帽弁と三尖弁の閉鎖不全も合併していた。 手術は左室部分切除と僧帽弁置換および三尖弁形成術を同時施行した。 本例は重篤な合併症もなく順調に回復した。
拡張型心筋症の末期状態で内科治療の限界にある患者に対してBatista手術は新たな希望として今後さらに注目され、臨床研究が進んで行くであろう。