拡張型心筋症に対する
左室縮小手術(Batista手術)


須磨久善

ポイント
拡張型心筋症に対して左室縮小手術は有用な治療法となりうるが、適切な症例の選択と手術時期が重要である。
全身状態が急速に悪化している時期での緊急手術はきわめてリスクが高く、安定した状態で手術を行うべきである。
左室各部のバイアビリティの評価が重要であるか、その検査法はいまだ確立されておらず、今後の発展が待たれる。

治療概要
 重症心不全を伴う心筋症に対して、心移植が行われているが、移植治療の特殊性に基づく種々の制約により、移植を望むすべての人々に必要なときにいつでも臓器が提供できるわけではない。このような状況の下で、薬剤治療の限界と臓器置換との大きな間隙を埋めるべく白己心修復手術が注目され(1)、左室部分切除術(2・3)(Batista手術)、心室内パッチ形成術(4)(Dor手術)、僧帽弁修復術(5)などが試みられている。拡張型心筋症で心拡大が生じるのは、心筋の収縮力が低下するために左室拡張末期容量を増加させて一回拍出量を維持するという、心臓の代償機序によるものと考えられていた。しかしながら、Batista手術を考案したブラジルの心臓外科医 Randas Batistaは、心拡大そのものが心筋の壁張力を増加させて収縮力を低下させている(Laplaceの定理:T=P×R/2d)とし、この法則に従えば心室径(R)を縮小することで、心筋の壁張力(T)が低下して収縮力が向上すると考えた。

 Batista手術は、主として非虚血性拡張型心筋症に対して、拡張した心室の後側壁の一部を切除し、左室を縮小する術式である(図1)。末期的な拡張型心筋症では僧帽弁輪の拡大により、僧帽弁閉鎖不全を合併していることが多く、弁形成術あるいは弁置換術が必要となることも多い。

図1 Batista 手術前後の左室造影所見






左室駆出率(%)
拡張期容量(m1)
収縮期容量(m/)
434
321
309
34
174
115
適 応
 左室の拡大(左室拡張末期径70mm以上)と内科治療に反応しない重篤な心不全の存在が、基本的な手術適応とされている。本手術を考慮する前にβ遮断薬などの心不全に対する新しい内科治療が慎重に試みられるべきであり、これらが無効な例が対象となる。しかし一方で、内科治療の限界がみえているにもかかわらず、カテコールアミンの長期投与下に全身状態の悪化と他臓器不全をきたし、急速な心不全のために緊急避難的な考えで本手術を行うことは避けるべきである。

 ほかの心臓手術と同様に、緊急Batista手術の成績はきわめて不良であり、安定した状態で待機的に手術を行うべきである。

 本術式では、心筋の収縮力が低下していても心室の拡張がないものは適応とならない。また切除後には、心室中隔側が重要な役割を果たすことになるため、中隔の病変が高度で左室後壁側の病変が比較的軽度の場合は、この手術によって心機能が悪化する可能性がある。したがって、拡張型心筋症全例に画一的に本術式を行うと危険であり、適切な症例の選択が重要である。従来の拡張型心筋症の検査では、心エコーやMRIやCTで、左室壁は全体的に菲薄化オた所見であるが、実際に左室切除を行うと、心筋は予想以上に厚い。拡張型心筋症の病理学的な心臓全割所見でも、心筋組織が均一に障害されている例はむしろ少なく、中隔側、あるいは後側壁側などに病変が偏って強くみられる例も少なくない。これらのことより、後側壁に病変が強く、中隔側に収縮力の残った心筋が存在する場合に本術式が有用な治療法になる。

 手術成績に関しては、過去4年間の白験例70例中、院内死亡は15例(21.4%)で、待機手術51例中3例(5.9%)、緊急手術19例中12例(63.2%)であった。主たる死因は心不全と多臓器不全であった。周術期大動脈バルーンポンプを!2例、左心補助装置を2例に使用した。画一的に左室側壁切除を行った初期24例の院内死亡率は33.3%(8/24)で、術中容量減少試験を導入して左室切除部位と術式の選択を行った後期46例では、院内死亡率は15.2%(7/46)に低下した。全体の3年生存率は61.9%であった
(2)

 米国の報告をみると、Cleveland Clinicからは62例のBatista手術の3年生存率53%、心不全回避率が42%と報告された。またEtochらは心移植登録症例29例とBatista手術を行った16例とを比較し、前者のうち心移植を行いえた17例では、1年生存率が93%と良好であるが、その間に移植を受けられなかった12例中6例が死亡したことを考慮すると、心移植登録症例全体の1年生存率は75%であり、Batista手術を受けた16例の1年生存率の86%に劣ることを報告した。FrazierらはBatista手術を受けた各21例(術前心不全期間平均60ヵ月と26ヵ月)を比較して、心不全期間の短い群において左室壁の線維化と心筋細胞肥大の程度が軽く、早期手術群の術後心機能の改善が良好であることを示した。


保険適用
 本手術は1998年1月より保険適用となった。手術総額は人工弁使用の有無などにより異なるが、術後大きな合併症をきたさなければ600万〜800万円程度である。これに対して現在、国保3割、社保で2割の白己負担金が請求されるが、その支払い額の約90%が、さらに数カ月後に還付されるために、最終的に白己支払い金は20万〜30万円程度である。

間題点
 本手術は、世に出ていまだ5年ほどの歴史しかないために明らかにされていない間題点は多い。Batista手術によって心機能の改善が期待できる症例の適切な選択、手術を行う適切な時期、術後の内科治療の継続、そして心筋病変の進行による心不全の再発はどこまで予防できるのか、などが今後の課題である。なかでも重要な点は、手術適応を決定するにあたって、左室心筋のバイアビリティを正確に評価することが必要であるが、現在その診断法はいまだ確立されていない。「拡大した左室のどの部分が最も弱っているのか?」「残す心筋は、今後の左心機能を維持するのに十分なバイアビリティを有しているのか?」などに関して様々な方面からの研究が待たれる。

内科医に注意してほしいポイント
 拡張型心筋症と診断されてβ遮断薬などの治療が奏効しないと考えられた時点で、経験ある外科医と手術適応に関して相談してほしい。長期のカテコールアミン投与で、心筋および全身状態が悪化してからの手術は、リスクが高く有効性に乏しい。また、本手術が成功した後にも内科治療の継続は重要で、術後の綿密な生活と投薬の管理が重要である。

文献
(1)Suma H,et al: Nontransplant cardiac surgery for end-stage cardiomyopathy.J Thorac Cardiovasc Surg 119:1233 -1244, 2000
(2)須磨久善・他: 重症心不全を伴う非虚血性心筋症に対する左室縮小形成術70例の経験。J Cardio137:1 -10, 2001
(3)Batista RJV,et al:Partial leftventriculectomyto treatend-stage heart disease. Ann Thorac Surg 64:634 - 638 1997
(4)Dor V,et al:Efficacy of endoventricular patch plasty in large postinfarction akinetic scar and severe left ventricular dysfunction;Comparison with a series of large dyskinetic scars・J Thorac Cardiovasc Surg116:50−59.1998
(5)Bolling SF,et al:Intermediate - term outcome of mitral reconstruction in cardiomyopathy. J Thorac Cardiovasc Surg115: 381−386.1998

「Medicina」Vol.38 no.7 2001-7 医学書院