医師の立場から
“医療はサービスだ”と最近よく聞く.しかし,誰が,いつ,どのように,患者たちにサービスを提供すればよいのか,具体案はよくみえない.
聡明で患者からの訴えをよく聞き説明の上手な医者,明るく,てきぱきと接してくれるナース,居心地よくプライバシーが守られる病室,etc‐….現在,これらをすべて揃えた病院は数少ない.さらに言えば,もしこれらさえ揃えば病院のサービスは満たされるのか.患者たちは心地良く入院生活を過ごせるのだろうか.答えはノーである.医師がいつも患者のそばにいて,すべての患者に毎日説明してばかりはいられない.手術,検査,学会,そして自分自身の生活,これらのための時間は必要である.ナースも各自がマンツーマンで一人の患者の入院から退院までを看るわけにはいかない.シフトのために様々なナースが一人の患者のまわりを巡っていく.一人の患者が安心して入院前から退院の日まで継続的に相談できる相手は,実は一人もいないのである.
筆者(H.S.)がこれまでに出会った患者たちの多くは,心臓の手術を受けるために入院してくる人たちだった.しかも,遠隔地から家族とともに不安を背負ってやってくる.どう行けば病院へ辿り着けるのか,入院に必要なものは,手術の前後に家族たちの泊まるホテルは,リハビリテーションは,など,様々な不安に対して病院側は精一杯答えようとするが,確実に不十分である.医師やナースがこれらについて,すべての入院患者にこと細かく説明している時間はない.病院のインフォメーションサービスも,患者の病気の種類や病状の程度,そして各科の受け入れ体制の違いまでも考慮したきめ細かな説明はできない.本当の意味での患者が安心して入院できるためのサービスという点では,現在の医療体制は隙間だらけである.
これらの隙間を埋めて患者の相談相手となり,医師やナースの説明不足を補い,医師,ナース,患者相互間において情報不足に陥るのを防ぐために,メディカルコーディネーターは存在する.コーディネーターの実務については次項で述べていただくが,筆者は,ゴーディネー夕一のインテリジェンスとして常に医師やナースと同じレベルのものをもって患者に接していただきたいと考えている.症例カンファレンスやチームミーティングには常に同席し,医師やナースとともに治療方針の決定や患者への説明について理解するだけではなく,積極的に自分自身の意見を述べていただきたい.学会へ出席して,自分の所属する専門分野の講演も聴き,自分たちの行っている治療が世界の第一線ではどのようなレベルにあるのかを知ってほしい.当然,その知識をもとに患者への説明は積極的に行ってもよいと考えている.医師とナースがコーディネーターをチームの一員として積極的に受け入れることにより,コーディネーターが成長していく過程に発生する問題は解決できる.
最後に,わが国の医療制度の欠陥の一つとして,このようなサービスに対する報酬がまったく考慮されていないことが問題である.コーディネーターの存在の重要性をもし病院経営者が認めたとしても,それは病院としてはまさに“出血サービス”としてコーディネーターを雇う以外にない.コーディネーターを置いて治療を充実させている病院と,まったくそのようなサービスには無関心の病院とで,治療に対する報酬はまったく同じというのが現実である.
コーディネーターの立場から
コーディネーターは,煩雑な医療現場で患者に関わるすべての関係を調整する仕事である.
筆者(S.Y.)は心臓血管外科・循環器内科を中心としたコーディネーターの仕事を始めて6年になる.実際の業務は,l)循環器内科医より手術依頼を受け,患者の情報を得て入院・手術の日時を外科医とともに決定し,内科医に伝える,2)患者に入院期間,医療費,家族待機などに関する案内を行う,3)症状に応じて患者の搬送をサポートする,4)手術に関するオリエンテーションや手術経過の連絡を行う,5)手術後はICUへの訪室,リハビリテーション期は外出リハビリテーションに同行する,6)退院時の家族への連絡,転院の場合は紹介医師に連絡をとり,交通ルートを案内すること,などである.要するに患者が不安と思うことのすべてを調整する業務である.
手術予定が決まった時点で,様々な情報を基に患者背景を考慮しながら仕事を進める.実際に患者からの質問の多くは,医療費用,入院期間,手術が成功するか,家族は入院中にどのように問わればよいのか,退院後の生活全般,社会復帰時期などに関してである.
医療費は公費が使える制度があり,他にも患者に利用できる医療制度を案内して,負担を少なくし支払いがスムーズに行われるようにする.入院期間については,できるかぎり早期退院を心がけている.大手術なので,早く退院して患者も家族も心配ということにならないようにする必要がある.入院前から患者や家族に早期退院への心がまえを説明することにより,早期回復がスムーズに行え,病院も病床の回転をより良くすることができる.
手術の必要性は,インフォームドコンセントの最も重要とされるところである.この場合の内科医の役割は大変大きい.なぜ手術が必要なのか,なぜ施設を選ぶ必要があるのか.患者がこのことを理解しているか否かで回復過程が変わる.実際に,内科医からこれらのことを十分に時間をかけてていねいに説明を受けて入院してきた場合,その患者の闘病姿勢,精神的な安定,治療に対する認識などが明確なため回復過程に強いと感じた.また,内科医はコーディネーターの存在についても患者に説明するため,入院生活の不安を訴えることが少ない.これとは逆に,内科医が十分説明していたつもりでも患者が理解していないことがある.グループで担当している施設から送られてきた患者は,複数の医師から少しずつ異なる説明を受けていることがある.その場合の患者は,手術に対して十分な受け入れができておらず,「手術を受けるかどうかはまだ思案中」と言われることもある.その場合は患者に対して再度,内科医に相談するように勧める.手術施設を選択する時点で決心がついていない患者には,セカンド・オピニオンとして数カ所の施設を訪ねてみることを勧める.その場合には,こちらの知る範囲で治療成績の良い施設名まで伝える.情報提供したうえでいつでも相談にのる旨を付け加え,患者に窓口を残すようにしている.あくまでも選択は医療を受ける患者自身の問題であるのだが,一般的に患者は医療の情報や現状を知らないために不安になる.自己決定ができない患者は,術後の回復期の通常の苦痛さえも苦しむことになる.本来の生活に戻るまでの数カ月間,「こんなはずでなかった」と手術したことを悔やむこともある.実際にこのような患者と関わってみて,患者を後悔させないように意思の疎通を図ることの大切さを痛感した.
気さくで,自信をもって説明を行う心臓外科医に出会えば,患者の手術に対する不安はこの時点てほぼ解消される.患者にとって,自分の心臓にメスをいれる人の顔を見て名前を名乗られることは,それだけでも意味深いことだと感じる.
一般的に治療に関する医師からの説明は,専門用語が数多く使われたり,患者が緊張していたりして,記憶も曖昧となる.後にあらためて説明内容の記憶をたどると,術後の合併症など断片的にインパクトの強い言葉のみが残り,かえって不安を残す.我々は患者からの質問の内容によっては,再度,医師に説明を依頼したり,説明書の中に記されていることをわかりやすく説明を加える役割を担う.
コーディネーターの大切な役割として,手術の当日の家族への配慮がある.手術の進行具合を人工心肺が外れた時点で報告する.進行状況を報告することにより,家族は残りの手術時間を短く感じ,安心して待つことができる.
以上のように,我々は入院の時点から医師やナースから患者や家族に多種多様に行われる説明について,わかりやすく,補足的に説明を行うことを心がけている.医師に代わって説明するためには,かなり密接に医師と関わっていなければならない.医療チームの中でのコーディネーターの存在の認識と信頼関係がなければならない.
6年を経過し,コーディネーターの存在はほぼ定着したと考える.その理由は,1)ニーズがあった.心臓外科医の手術技術に対して,日本各地の循環器内科から手術の依頼があった,2)診療科に特性がある.心臓病で,放置すれば突然死するという状況の中で,患者自身が手術時期や病院を選択し,生命に関わる手術を受けることに不安が大きい,3)病院の理解があった.非生産部門であるが患者の二一ズが存在していることを認識していた,4)コーディネーターに看護婦経験があり,患者が必要としていることを専門的に把握しやすかった,などである.
コーディネーターの仕事の問題点として,1)職種に対する理解がまだ不十分である,2)仕事が広範囲に及ぶため,多くの知識や臨機応変な対処を常に必要とする,3)受け持ち割なので,24時間責任を常に感じている,などがある.反面,入院から一貫して患者と関わっているため,インフォームドコンセントがスムーズに行え,患者は初めて受けるこのサービスにほぼ満足していることを感じる.元気に退院する姿を見送る時はチーム医療の素晴らしさを感じる.サービス業として,居心地が良く料理もおいしいと言われる旅館のおかみさんが満足して帰るお客さんを見送り,「さあ,また頑張ろう」と思う気持ちに似ている.
*1 すま ひさよし 湘南鎌倉総合病院院長 心臓血管外科 〒247 鎌倉市山崎1202-1
*2 やまなか すずみ オフィス・メディ・フォーム,メディカル・コーディネーター