臓器移植法施行から3か月たっても脳死での臓器提供者が現れず移植希望者のいらだちが募るなかで,心臓移植の対象とされる心筋症に対する、いくつかの新治療法が広がってきた。長期的な効果がはっきりしないなどの課題はあるが、移植のめどが立たない患者に大きな希望与えている。(科学部原 康文)
◆成長ホルモン療法
下垂体性小人定の治療に使われる成長ホルモンは筋肉や骨を増強する作用があり、心筋を増強する。一昨年イタリアの研究者がこの療法で拡張型心筋症患者の弱った心臓収縮力が回復したと報告、国内でも取り組む施設が出てきた。
国立循環器病センター(大阪府吹田市)は昨年1月から拡張型心筋症患者3人を治療。二人はあまり変化がなかったが,ひとりは収縮力が増し、自覚症状も改善。治療終了後も安定,仕事に復帰したという。「患者によっては有望な治療法では」と宮武邦夫循環器内科部長。大阪医大(大阪府高槻市〉の第三内科でも5人に試み、2人は心拍出量や心筋量が改善した。
◆左心室縮小形成手術(バチスタ手術)

1980年代、ブラジルのランダス・バチスタ博士が考案、移植施設としで有名な米クリーブランドクリニックが積極的に取り組んだことから急速に普及。左心室の心筋の一部を切り取って心臓の容積を減らし、収縮力を向上させる手術で、心筋が弱るから拡張して補っているという病気の概念を覆した。
国内では浦南鎌倉総合病院(神奈川県鎌倉市)が96年12月から15人を手術し、10人が生存中。術後半年を経過した8人は心機能が著しく回復、それを維持している。9人は心臓移植で最優先されるほど状態の悪い患者だった。他施設でも行われるようになり、今月から保険適用された。須磨久善副院長は「移植までの橋渡しとして評価できるし、移植の代替治療になる期待もある」と話す。昨年4月に同病院で手術を受け、大阪医大に通院している大阪府内の肥大型心筋症の男性(44〉は自覚症状の指標が最悪ランクだったが、手術後不整脈が十分の一に減った。「歩ける距離も延びた。早く仕事がしたい」と話している。
国立循環器病センターでも重症の拡張型心筋症の男性(42)が昨年11月、同手術を受け、改善した。
◆補助人工心臓
国立循環器病センターでは,拡張型心筋症患者に日本製の補助心臓を着けて、心臓を休ませ、心臓移植が必要だった2人が補助心臓を取り外せるまでに回復した。世界では20人以上が装置を取り外せている。
移植までの橋渡しが目的の装置だが、海外ではボンブを体に埋め込む補助心臓を、高齢やがんで移植を受けられない24人に永久使用目的で装着している。最長使用は約2年4か月。
三つの治療法はともに、効果のメカニズムや継続性が不明。治る人と治らない人の違いも今のところはっきりしない。しかし、深刻な臓器提供者不足が予測される日本ではこれらの療法は移植までの橋渡しにとどまらない可能性がありそうだ。