心臓縮小手術に脚光

拡張型心筋症で増える実施例

 重症になれば心臓移植が必要になる拡張型心筋症について患者の心臓を一部切り取って縮小する手術が注目を集めている。もともとはブラジルの病院で考案された治療法だが、移植のための臓器不足に悩む欧米で注目を集め、実施例が増えてきている。日本も事情は同じで、湘南鎌倉総合病院(神奈川県鎌倉市)が昨年末から治療に取り入れているほか、実施に向けて準備を始める病院も出てきた。評価はまだはっきりしない面もあるが、移植までのつなぎの治療になるのではと期待されている。


「移植まで、つなぎの治療に」

 「手術から30日で歩けるようになった。一週間後には食欲も出て、よくねむれるようになった」

 重い拡張型心筋症の米谷茂樹さん(54)=東京都在住=は6月、湘南鎌倉総合病院で心臓縮小手術を受け、一カ月後に退院するまでに回復した。

 米谷さんは約12年前に拡張型心筋症と診断された。心機能が低下して肺に血液がとどこおりやすく、たびたび「おぼれるほどの苦しさ」に見舞われた。今年一月、呼吸不全から一時心臓が停止、医師に余命一年以内と宣告された。海外での移植も考えたが、高額の費用に断念。症状が再び悪化した春、家族が雑誌で同病院の手術を知り、すがる思いで連絡したという。

 同病院は昨年12月、重症の拡張型心筋症患者の治療に初めて心臓縮小手術を取り入れた。左心室の壁を一部切除し、心室を縮小して容量を3、4割小さくする=図。7月までに米谷さんを含む、42歳から60歳の7人に実施。5人が日常生活に支障がないほど改善し退院した。一方最初の一人は心機能は向上したが肺疾患で、一人は手術前に症状が悪くなり過ぎていてそれぞれ死亡した。

 心臓縮小手術は、ブラジル・パラナ州にあるカロン病院の外科医バチスタ氏が1980年代に始めた。同病院はへき地にあり、長期の薬物治療や術後管理が必要な心臓移植をしても、患者の通院は期待しにくい。このため、一度に、心機能を一定程度回復させる方法として考案された。これを90年代にバチスタ氏が学会で発表。臓器不足に悩む欧米の外科医の間で、移植までのつなぎとして関心を集め、ここ2〜3年、実施に取り組む病院が増えている。

 カロン病院で執刀経験がある東海大医学部の川口章・助教授(心臓外科)によると、同病院での患者の1年生存率は6割。心臓移植が8割を越えるのを考えればやや低いが、移植では臓器提供を待つうちに死亡する患者が少なくない。これを含めた患者の死亡率はそう変わらないという。

 佐賀俊彦・兵庫医大講師(心臓外科)は、近畿大講師だった昨年12月、近畿大病院で、19歳の患者に心室内にできた血液の塊を取る手術をした際に、縮小手術を併せて実施した。患者は移植が必要なほど末期ではなく、補助的な措置だったが、患者の心機能は手術前の倍近くになった。

 佐賀講師は「末期にならないうちに手術で症状を軽く出来れば薬物治療によるコントロールが期待できる」とし、同じような患者に実施していく予定。東海大病院でも倫理委員会に実施を申請中だ。

 ただ、この手術でどうして心機能が回復するのかという裏付けや、どんな症例が一番適しているか、縮小後の心臓が再拡大する恐れはないのか、など治療の適応条件や長期的な影響はまだはっきりしていない。10月に外科医と内科医が協力して研究会を発足させ、国際シンポジウムを開いて検討を始める予定だ。

 湘南鎌倉総合病院の須磨久善副院長は「きちんとした手術例を積み重ね、長期予後を評価していくことが重要だ」と話す。川口・東海大助教授は「心臓縮小手術は心臓移植に代わる魔法の手術ではないが、病状の進行を送らせたり、食い止めたりすることは出来るはずだ」と縮小手術の今後に期待している。

                           (1997.8.17 朝日新聞(日曜版)より)



 拡張型心筋症

心臓の左心室は、肺で酸素を受け取った血液を全身に送りだすポンプの役割を果たしている。この左心室が拡大し、ポンプ機能が低下する病気だ。呼吸困難などの症状が出て、放っておけば死に至る。進行性の場合が多く、重症の場合には心臓移植の対象になる。



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