「拡張型心筋症」患者を救う

注目の「バチスタ手術」

 心臓移植以外に助かる道はない、とされる重い「拡張型心筋症」の患者を救う新しい手術法「バチスタ手術」が注目されている。ブラジルの地方都市に住む医師が始めたが、世界的に移植用の心臓提供者が不足しているだけに、欧米でも実施されるようになった。国内では神奈川県鎌倉市の湘南鎌倉総合病院で昨年末から始まり、5人が成功し、退院。他の施設でも準備が進んでいる。


心臓の収縮力回復

日本は昨年末から始まる

 拡張型心筋症は、心室の壁が肥大し、膨らみ過ぎた風船のように心筋が薄くなり、弾力性を失う。症状が進むと確実に死を迎える。原因は遺伝子の異常と見られているが、はっきりしない。

 この手術は、ブラジルの医師、ランダス・バチスタ博士が考案した。薄くなっている左心室の壁の一部を、縦10〜15センチ、横5〜6センチほど切除し、縫い合わせる。こうして左心室を小さくすることで、心臓の収縮力を回復させる。


拡張した心臓(左)から左心室の一部を切り取り、
縫い合わせるバチスタ手術

 バチスタ博士はクリティーバという地方都市で、1980年代から実施していたが、国際的には無視されていた。三年ほど前、米国で初めて行われ、成功したことから一挙に広まった。

 心臓移植も積極的に行っている米クリーブランド・クリニックでは「昨年6月から53例のバチスタ手術を行い、49例が生存。心臓の再拡大がみられた例はない」と報告している。

 バチスタ博士は「手術後2年の生存率は60%」と話す。これは、心臓移植の5年生存率70%に比べると低い。また、患者は手術後も内科的な治療を受ける必要がある。

 湘南鎌倉総合病院の須磨久善副院長は、研究のためにイタリア滞在中の95年、この手術が初めてヨーロッパで行なわれたのを目にし、「日本にも導入したい」と、バチスタ博士を訪ねたりして研究を重ねた。


2歳の時に手術を受けた少年(4歳)を挟んで語る
バチスタ博士(左)と須磨久善副院長


 昨年12月の第一例は、12日後に肺炎で死亡したものの、その後は6例中5例が成功、退院した。

 須磨副院長は「もう少し経過を見る必要はあるが、バチスタ手術は移植と両立する治療法であるだけでなく、移植手術を受けるまでのつなぎの治療法としても使える」と話している。

 臓器移植法ができ、今秋から国内でも心臓移植手術ができるようになるが、臓器提供者は非常に少ないとみられていることから、バチスタ手術が広く行なわれる可能性が高い。

 東海大心臓血管移植外科の川口章助教授は「学内の倫理委員会に手術を申請しており。承認が得られればいつでも実行できる」という。また、国立循環器病センター(大阪府)などでも実施を検討している。

                                 (1997.8.12東京新聞夕刊より)



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