狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患が日本で増えています。働き盛りで、家族や社会にとって大切な人々の突然死が、私達の周囲に目立ってきました。虚血性心疾患は、心臓に血液を送る冠動脈が動脈硬化のために狭くなって、心臓の筋肉に十分に血が通わなくなる病気です。ちょうど、車のガソリンパイプがつまって、エンジンが動かなくなるような状態です。
食事や運動で動脈硬化を予防することが一番ですが、このストレスの多い時代に、なかなか容易なことではありません。血管も老化するのです。突然死する前に発見すれば、現在はいくつもの治療法を選べる時代です。
冠動脈の狭くなっている場所と動脈硬化の程度によって治療法は異なります。もし、閉塞してもそれほど大きな心筋梗塞にならず、狭まりの程度も軽ければ、まず生活習慣の改善と薬物療法から始めます。
もしその冠動脈が比較的太くて心臓にとって重要であれば、カテーテルという細くて軟らかい管を腕や足の動脈から冠動脈まで通して、その先についた風船やその他の新しい器具を使って狭窄部を拡げます。ちょうど、道路が土砂崩れで通れなくなった時に、ブルドーザーで整備するようなものです。この方法は短い入院期間で、大きな傷をつけずにできますが、1/3〜1/4の頻度で再び狭くなります。押しのけた土砂がまた崩れてくる状態です。
最後にこれらの方法が難しいか危険と考えられる時には、冠動脈バイバス手術の適用になります。これは土砂崩れを起こしたところには手をつけずに、バイパスの言葉通り、別の新しい道をつくる方法です。この手術は今から30年くらい前に開発され、米国を中心に広く行われるようになりました。米国では年間に約40万人、ヨーロッパ全体では約30万人、日本でも1万人以上の人がこの手術を受けています。
バイパスに使う血管は患者自身の胸や腕や胃の動脈、あるいは足の静脈を使います。静脈よりも動脈を使った方が、10年後の成績が良いとわかっています。手術の成績は、患者さんの術前状態と心臓外科チームの完成度によって異なってきます。冠動脈は直径1〜2ミリのとても細い血管で、髪の毛よりも細い糸で縫い合わせるのに相当の熟練を要しますが、経験豊富な病院では、成功率は99%近くにも達しています。
最近では人工心肺を使わずに、心臓が動いたままで手術する方法が開発され、さらにバイバスできないほど冠動脈が細くなっている場合には、特殊なレーザーを使って心筋への血流を増加させる方法が成果を上げています。心臓病の治療は今、目覚ましく進歩しています。
ヘルス談話室「L&G(レディース&ジェントルメン)」1999年4月号より