【左心室縮小形成術】

心臓の筋肉(心筋)が徐徐に衰える拡張型心筋症が悪化し、1か月近く寝たきりとなった東京都の60歳代の男性Aさんは、今年4月、東京都港区の心臓血管研究所付属病院に転院した。大きく広がって働きの鈍った心臓の左心室を、心筋を切除せずに小さくする新しい手術(左心室縮小形成術)を受けた。手術3日目から歩行が可能となり、1か月のリハビリを経て退院、経過も良好だ。

    −−−−−−「良い心筋」残し生かす−−−−−−

拡張型心筋症は原因不明で、重症だと心臓移植以外では助からないとされる。四つある心臓の部屋のうち、全身に血液を送る左心室が、心筋の働きが弱った分、ボンブ機能を維持しようと膨らむ。

1990年代初めに始まった冶療が、拡張した左心室の心筋の一部をばっさり切り取る「バチスタ手術」だ。ブラジルのR・バチスタ医師が考案した。左心室の容積を減らすことで心臓の収縮力を増し、ポンプ機能を回復させる。日本では96年に初めて行われ、98年に保険適用された。

だが、手術の成績が思わしくなく、件数は伸び悩む。バチスタ手術では、左心室の背中側の心筋を画一的に切除する。しかし、肥大した心筋は一様に悪くなるのではなく、重症の患者でも十分な機能を持つ部分が残っていることがわかってきた。

心臓血管研究所付属病院心臓外科で指導する医師、須磨久善さんは、国内で初めてこの手術を実施した第一人者。手術中に、超音波装置で、心筋の障害のある部分と、機能を維持した部分を見分け、可能な限り良い部分を残す改良型のバチスタ手術を5年前に考案した。

心筋のうち、左右の心室を仕切る心室中隔の付近が悪くなった場合、中隔は切除できない。そこで須磨さんは、特殊な合成繊維でできた布(パッチ)で間仕切りを作って心室の空間を狭め、中隔を切除せずに左心室を3分の2程度に縮小させる「中隔前壁心室除外術」−SAVE(セイブ)手術−も開発した。

パッチの間仕切りと中隔の間には血液が入り込み、自然にふさがれる。Aさんも、左心室裏側の心筋が十分な機能を保っており、SAVE手術の対象となった。この手術も保険が適用される。

傷んだ心筋の部位により、改良型バチスタ手術とSAVE手術の2通りの左心室縮小形成術を使い分ける手法で、治療成績は向上した。

須磨さんが今春まで院長だった葉山ハートセンター(神奈川県葉山町)などで実施した96例の場合、左心室の裏側を一様に切除した従来のバチスタでは、手術による死亡率は42.8%。一方、心筋の具合を見て、改良型バチスタとSAVEを選択した場合の死亡率は14.6%と、約3分の1に減った。

須磨さんは「良い心筋を残すことで、切除する部分を小さくできる。内科的冶療を組み合わせ、長期の生存率の改善も期待している」と語る。

同研究所付属病院の内科的冶療は、左心室形成術の後、新しいぺースメーカー「両心室ぺーシング」の機器を埋め込む。通常のぺースメーカーは右心室に電気刺激を与えるが、両心室ぺーシングは左右の心室をほぼ同時に刺激し、スムーズに収縮させる。

心室形成術は、(1)薬による冶療で心不全が改善しない(2)左心室の内径が8センチ以上に拡張している(3)左心房と左心室の間の僧帽弁に逆流がある、などが条件。須磨さんは欧米でも手術を指導している。

(科学部・長谷川 聖治)

2005.8.22 読売新聞 夕刊より