バチスタ手術とは

バチスタ手術とは考案者のブラジルの心臓外科医ランダス・バチスタ医師の名をとって,そう呼ばれるようになった心臓手術です.拡張型心筋症という重症の心臓病に対して行われる手術で,大きく膨らんだ左心室の一部を切り取って左心室を縮小することにより,心機能の改善を図ろうとするものです.日本では心臓を縮小する他の術式(Dor手術やSAVE手術など)も含めて,左室縮小形成術と呼ばれます.南山堂の医学大辞典には次のように記載されています.

1.【バチスタ手術】[Batista operation] [左室部分切除術partial left ventriculectomy (PLV)]
さまざまな原因に基づく心筋症の末期には,多くの場合,左心室が著しく拡大して収縮力は低下し,重篤な心不全に陥る.また,弁輪拡大に起因する僧帽弁閉鎖不全を高率に合併して心機能はさらに低下する.このような重症心不全を伴う末期的心筋症に対して,薬剤治療が限界に達すれば,心臓移植のみが有効な治療法とされてきた.バチスタは左室の拡大が心機能低下に対する代償という従来の常識とは逆に,拡大することが左室壁応力(wall stress) を増加させ,収縮を妨げていると考えた.ラプラスの法則(壁応力は内圧と内径の積に比例する)を拠りどころとして,拡大した左室の自由壁の一部を大きく切除して左室を縮小し,内径を減じることにより,壁応力を低下させて収縮力の向上をはかる手術を考案した.多くの例で僧帽弁や三尖弁の閉鎖不全を修復する手術を同時に行う.バチスタ自身は本手術に1980年代から取り組んでいたが1990年代中頃に世界的に注目され各国で試みられた.心機能と臨床症状の改善が得られる症例が認められる一方で,重篤な全身状態で侵襲の大きい手術を行うために手術死亡率が高く,心不全の再発もみられるために,一時期待が薄れた.わが国では須磨らが1990年代末から,左室の最も弱っている部分を超音波で検出して切除範囲を決め,全身状態が悪化する前に手術を行うことによって手術成績の向上が得られつつある(Randas J. V. Batistaはブラジルの外科医,1947年生).

2.【拡張型心筋症】[dilated cardiomyopathy, DCM]
典型的なうっ血性心不全の症状を示すことから,以前はうっ血型心筋症と呼ばれていた.しかし,心不全発症前に基本病態である心筋収縮不全と心室拡張が診断できるようになり,DCMと改められた.DCMは左室または両心室の収縮不全を基本病態とし,心室拡張と壁運動低下を特徴とする疾患群である.従来の概念では原因は不明であるとされてきたが,1995年にWHO-ISFCにより改訂され,病因は特発性,家族性/遺伝性,ウイルス性/免疫性,アルコール/中毒性,虚血性など,二次性の心筋障害を含むようになった.病理組織学的所見は心筋細胞の変性・壊死・繊維化で,特異的所見に乏しく,しばしば進行性である.DCMの一部に細胞浸潤が存在する症例があるが,細胞浸潤をDCMの付随的所見とみなすのか,慢性心筋炎をDCMと独立した疾患ととらえるのか,その鑑別については慎重を要する.一般的にDCMの予後は不良とされてきたが,個々の症例の臨床経過・予後はきわめて多様である.不整脈,血栓塞栓症,突然死の合併が多い.近年,ACE阻害薬やβ遮断薬による心不全治療と致死性不整脈に対して植込み型除細動器(ICD)が導入され,DCMの予後は少し改善された.

写真1.バチスタ医師が手術のコンセプトを説明しているところ

写真2.バチスタ医師が紹介されたTIME誌(1997年)

写真3.(動画)バチスタ手術の実際